2017年読書日記

 

【2017年 読書日記】

◎2017年11月10日『冷戦とクラシック 音楽家たちの知られざる闘い 』
◎2017年10月15日『東芝の悲劇 (幻冬舎単行本)』大鹿靖明
◎2017年10月9日『湖の男 エーレンデュル捜査官シリーズ』アーナルデュル・インドリダソン
◎2017年8月20日『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』サムエル・ビョルク
◎2017年8月9日『第五の福音書 上下 (ハヤカワ文庫NV)』イアン・コールドウェル
◎2017年6月3日『氷結 (ハーパーBOOKS)』ベルナール・ミニエ
◎2017年5月12日『北京から来た男 (創元推理文庫)』ヘニング・マンケル


20171110日『冷戦とクラシック 音楽家たちの知られざる闘い (NHK出版)』中川右介

☆☆☆☆☆激動の時代を生き抜いた音楽家たち

 クラシック音楽ファンには大変興味深く読める本だ。カラヤン、ムラヴィンスキー、バーンスタインを軸に、その周辺の音楽家たちも触れつつ、時系列で戦中戦後から冷戦時代の終わりまでを描いている。

 独裁者や体制の圧力に対する音楽家たちの各人各様の身の処し方や苦闘がわかって面白い。

 ムラヴィンスキーは旧ソ連を代表する音楽家のように見えたが、体制とは距離を置き続けた孤高武骨の巨匠だった。

 他方、バーンスタインはアメリカを代表する音楽家ではあるが、その自由な精神ゆえに赤狩りの対象にされたりしつつも闘い続けた活動家だったと言える。ベルリンの壁崩壊後の第九コンサートはとても感動的だった。

 政治家もそうだが、激動の時代を戦い抜けた20世紀音楽家たちの人間的な存在感は大きく感じられる。

 

 

20171015日『東芝の悲劇 (幻冬舎単行本)』大鹿靖明

☆☆☆☆☆「国策捜査」の裏返し

 本の内容については他の書評に詳しいのでそちらに譲るが、さすがに経済記者らしい直接の取材やインタビューで裏付けられており、読みごたえがある。

 特に東芝が財界主流や経産省と深く結びつき、原発推進政策から福島第一原発の事故処理まで担ういわば国策企業であることが莫大な粉飾決算と債務超過の処理に影響を与えており、安倍政権と経産省の全面バックアップで救済策が進められていることがよくわかる。

 ライブドア事件では「国策捜査」ということが言われたが、東芝の粉飾決算はその規模も悪質さもはるかに大きいのに破産も刑事処罰も回避されている。「国策捜査」の完全な裏返しの、これもまた露骨な「国策」である。

 経済秩序や企業倫理の観点から見れば、モラルハザードそのものというほかない。  


2017109日『湖の男 エーレンデュル捜査官シリーズ』アーナルデュル・インドリダソン

☆☆☆☆☆冷戦時代のヨーロッパ史への誘い

 アイスランドについては世界史でも地理でもほとんど習うことがない。地図で北極圏に近い小さな島国だとわかる程度である。

 しかし、冷戦時代、この国には米軍基地が置かれ、アメリカの対ソ戦略上重要な場所であった。核廃絶に向けたレーガン・ゴルバチョフ会談がレイキャビクで行われたことを覚えている人もいるだろう。

 小説は冒頭の干上がった湖の底で発遣された白骨から一挙に冷戦時代に遡り、アイスランドから旧東ドイツへの留学生グループの物語が並行して語られ、それが白骨をめぐる捜査と巧みに絡められて展開される。

 翻訳もよく、小説それ自体で楽しめるが、できれば冷戦時代の東欧史をざっとでも概観した方が、小説を深く理解できると思う。

 1950年代のハンガリー、60年代のチェコ、そして70年代のポーランドと続いた東欧社会主義国の民主化運動と弾圧の歴史なしに、あのベルリンの壁崩壊はなかった。

 ただ、東欧民主化運動の求めたものは「人間の顔をした社会主義」だったが、冷戦崩壊後はソ連型の官僚社会主義への反動から一挙に資本主義化したのは歴史の皮肉というほかない。

 

 

2017820日『オスロ警察殺人捜査課特別班 アイム・トラベリング・アローン』サムエル・ビョルク

☆☆☆道具立てが複雑すぎ、かつ不自然なラスト

 猟奇的殺人やオウムを想起させるカルト教団などにぎやかな筋立てだが、登場人物と筋がごちゃごちゃしていて十分こなせておらず、展開と説明不足の感がぬぐえない。

 また、結末に向かって大急ぎでまとめたような印象で、ラストで子どもが果たす役割もできすぎていて不自然。

 この内容だと、1冊ではなく2冊くらいの分量が必要だと思う。

 

 

201789日『第五の福音書 上下 (ハヤカワ文庫NV)』イアン・コールドウェル

☆☆☆フィクションなのか??

 バチカンの行政機構や裁判制度などよく調べてあって関心のある人には興味深く読めるだろうが、いささか細かすぎる上に長い。

 なによりも歴史的にも大きな影響を与えたヨハネ・パウロ二世を実名で登場させており、史実との関係が気になる。フィクションではすまないと思う。

 

 

201763日『氷結 (ハーパーBOOKS)』ベルナール・ミニエ

☆☆☆サスペンス映画のような展開だが・・・

 舞台はピレネー山中の寒村で山の上の発電所、次々起こる猟奇的殺人事件、予想外のドラマ展開といったサスペンスの要素は堪能できるが、登場人物にそれぞれ訳ありの過去があったり、凶悪な殺人事件の捜査なのにプロフェッショナルであるべき捜査官が危険な単独行動や秘密行動を取る場面が多すぎてリアリティに欠ける。

 無理にドラマ展開をつくっている感さえある。

 

 

2017512日『北京から来た男 (創元推理文庫)』ヘニング・マンケル

☆☆☆☆時空を超えたダイナミックな展開、難を言えば・・・

 現代のスウェーデンの寒村での大虐殺から、100年以上遡ったアメリカ移民の話へ、さらには現代中国の権力闘争まで、ダイナミックなストーリー展開で一気に読ませるのはさすがと思わせる。

 また、人種差別やアフリカの植民地主義の後遺症、中国革命の行方など、現代社会に切り込む問題意識も鋭い。

 ただ1つ難を言えば、主人公の女性裁判官の行動が独断専行でうかつすぎること。司法制度や捜査機関の権力構造を知り尽くした刑事裁判官なら、権力機構の使い方をもっとよく知っているし、立場上も単独で捜査まがいの行動はしない。また、危険を感じたときももっと組織的に対応するはずだ。



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